COLUMN
第二回「「優しい看護師」と「厳しい看護師」はどっちがいい?」の悩みを解決
コラム連載【看護師の病院と家庭のコミュニケーションの『なぜ?』をコーチング技法で解決!】
TNサクセスコーチング株式会社 奥山美奈さんの看護師に向けたコラム連載です。病院、日常生活でのコミュニケーションの疑問や悩みを事例と一緒に打開していきます。医療現場に限らず、職場のマネジメントやプライベートでの人間関係にお悩みの方も是非活用してみてください。
第二回は、患者さんや部下に対して「優しさ(非指示的)」と「厳しさ(指示的)」を使い分けるコツを事例とともにご紹介します。
「優しい」と「厳しい」はどう違う?
もしも家族や大切な人が入院するとなったとき、受け持ちの看護師さんは優しい人であってほしい。そんなふうに思いますよね。でも、こだわりの強い患者さんで家族の方や医療者の指示に従わなかったりするときには、逆にビシッと注意してくれる看護師さんの対応の方がありがたいと思うこともあります。
そもそも、この「優しい」や「厳しい」看護師さんとはどんな人のことをいうのでしょうか。そして、両者が共存することは無理なのでしょうか。
一般的に医療者には「優しい」対応が求められますが、「厳しさ」が必要な場合もあります。今回は「優しい」と「厳しい」の一般的な定義とその違い、そしてそれらがどんなときに役立つのかを一緒に考えてみることにしましょう。
優しいとは「非指示的」。厳しいとは「指示的」。
下の表は、私がコーチ育成や研修で活用している表です。よい指導者の「優しい(非指示的)」言動と「厳しい(指示的)」言動をそれぞれまとめています。
よい指導者(先輩・上司・コーチなど)の言動
非指示的(優しい)行動 | 指示的(厳しい)行動 |
横から提示する | 上から指示・命令する |
静かに、穏やかに話す | 大きな声でハキハキ話す |
ゆっくりでワンメッセージ | 早口で情報量が多い |
語尾が曖昧なこともある | 語尾が強く、言い切る |
相手の選択・決定を待つ | 選ばせる・選択肢を絞る |
励ます・ねぎらう・勇気づける | より多く介入し、行動を取らせる |
ページング・うなずく・相手の言葉を繰り返す | あえてノーページングのこともある |
穏やかな表情・微笑みがある | 笑顔はなくクール |
まなざしが優しい | 目力が強い |
十分な時間を与える・時に待つ | スピーディで時に急がせる |
ボディランゲージは小さく自然 | ボディランゲージが大きい |
リアクションは小さめ | リアクションが大きい |
選択肢を多く示し、相手の決定を尊重する | 答えを与える |
ナチュラルで穏やか | エネルギッシュ |
プレッシャーを緩和する | プレッシャーを与える |
プロセスを意識し、大切にさせる | 結果やゴールを意識させる |
表を見るとわかるように、穏やかにゆっくりと耳元で話しかけたり、優しいまなざしと言葉で人を励ましたり、相手の決定を待つような言動は「非指示的」(優しい対応)。クールにやるべきことを端的に指示したり、選択肢を絞り相手の決定を促したりする言動を「指示的」(厳しい対応)と定義しています。
病院に伺っていると患者満足度アンケートの結果を見ることがありますが、患者さんは全般的に看護師に「優しさ」を求めている一方で、毅然とした態度で接してくれたことが逆によかったという記述も多くあります。医療の現場では、患者さんやご家族に治療方針への同意を求めるときなど、短時間で必要な情報を提供し、後悔しないような選択をしてもらう場面が多々あります。こうしたときには指示的な対応、つまり「厳しさ」が特に好まれているようでした。
では、具体的な実例を元にどのようにして「優しさ(非指示的)」と「厳しさ(指示的)」を使い分けしていくべきなのか考えていきましょう。
実例:注射の苦手な患者への「非指示的」・「指示的」な看護師の対応
数年前、私の娘がとある病院に入院し「手術」を受けました。1時間程度で終わる手術でしたが、先端恐怖症で注射が苦手な娘にとってはそれでも一大事。ルート確保の時点から大暴れし、退院指導も超反抗的で本当にたくさんの人に迷惑をかけてしまいました。
そんな娘が無事に手術を終え、退院することができたのはタイプが違う2人の看護師さんの対応のおかげだと感じています。
入院の受け入れをしてくれた看護師さんは非指示的なとても優しいタイプの看護師さん。そして手術当日から退院までを担当してくれたのは、クールで「できることはできるが、できないことはできません」とパシッと物を言う超指示的なタイプの看護師さんでした。
娘の事例をご紹介しながら非指示的、指示的な対応の違いを考えてみたいと思います
「非指示的な(優しい)対応」は患者の不安を軽減し、持っている力を引き出すことができる
先端恐怖症の娘は、小学校の2年生の頃からまともに採血や注射をしたことがありませんでした(予防接種も必要最低限のものしかできていません)。これまでかろうじて注射ができたというのは、ケガでどうしても皮膚の縫合が必要で麻酔をした時と、急性虫垂炎で緊急入院した時のたったの2回。今回の入院でも大人4人で押さえても暴れてしまい、採血もできずにいました。
そんな状況で、優しい看護師さんが「注射って嫌だよね、怖いよね。わかるよ。看護師さんだって本当はしたくないって言いたい。でも患者さんにはたくさん自分がお注射してるのにそんなこと言えないよな…ってやせ我慢してるだけなんだよ。」と、大声で泣きわめく娘にこの上ない優しい声をかけてくれました。その言葉を聞いて娘も「もう大人なのにこんなに暴れてごめんなさい。こんな人いないよね、恥ずかしいよね…。」と、だんだん素直になっていきました。
それでも注射はやはりできません。情けなくて私も泣けてきました。なぜならこの日のために、親子でもできるだけ限りの努力をして臨んだ入院だからでした。
藁にもすがる思いで「注射が怖くなくなる」という暗示(動的催眠)をかけてくれるという民間のカウンセリングルームに入院前日まで毎日通ったりしました。(5回のカウンセリングで5万円と高額…)それでもやっぱり手術当日は怖くて逃げ出そうとするので、午前中に精神科を受診させ、なんとか午後から入院させました。本人はもうフラフラしているので、外来から車いすで病棟に移動しました。
1時間たっても暴れて点滴ができず、娘も私も「もうダメか…」と、あきらめかけていると、看護師さんが、娘の耳元でおだやかに「絶対に入るから大丈夫だよ。もう1回だけがんばってみようよ。」と声をかけながらチャレンジしてくれました。すると、なんとエラスターがすんなりと入ったのです。「で…できた!!」と、娘と私はしばらく涙が止まりませんでした。
「指示的な(厳しい)対応」は対象の甘えを抑えることで、持っている力を引き出すことができる
一方、手術当日の看護師さんは指示的で娘に淡々と術当日の流れを説明する方でした。留置したルートに点滴をつなごうと左手に触ろうとすると、「やめて!」と娘が、看護師さんの手を払いのけました。
私が娘が先端恐怖症である旨をおずおずと伝えると、看護師さんは娘に「あ、そうなんですか。でも点滴しないと手術できないけどどうするの?しかも留置してあるところにつなぐだけだから痛くないですけどね。」と、クールに担々と話しました。その後「優しく、こっちに見せないで包帯とってください!」と要求した娘に「できるかぎりそうします」と言って点滴をつないでくれました。
術後の抜針時に暴れようとした娘にも、その看護師さんは「じゃあ、このまま針を刺して帰るんですね」とズバッと伝えました。娘はそれに対し、「それは嫌です。でも痛くないように抜いて下さい」とお願い。すると、「痛いかどうかは本人の感覚ですので約束はできませんが、できるだけスピーディにはします。」とおっしゃって、スッと抜いてくれました。
娘ははじめ、指示的なこの看護師さんを怖がっていて「昨日の看護師さんがいい」と泣き叫んでいました。しかし、私はこの指示的な看護師さんが術当日~退院までを担当してくれたおかげで、娘の甘えが出る場面がなく、スムーズに退院することができたと感謝しています。
「非指示的」と「指示的」な対応は状況での使い分けが大事
上記の表は、「非指示的」・「指示的」な対応がそれぞれどんな状況で役に立つかを示したものです。
非指示的・指示的な行動が役立つ状況
非指示的(優しい)行動 | 指示的(厳しい)行動 |
比較的納期や期限にゆとりがある時 | 期限が短い時(短納期) |
チームが成長している時 | 行動させる・達成させる必要がある時 |
自発性がある段階 | 自発性がない、成熟していないメンバーの時 |
チームとして知識力や経験が高い時 | チームとして知識や経験が乏しい時 |
創造的な仕事をやってもらう時 | コンテンツが使えない時 |
情報が欠けている時 | 決まっていることをやる時 |
できるベテランの人々がメンバーの時 | 新人指導時や未経験の役割を取る時 |
内発的動機付けが高い時 | 外発的動機付けが低い時 |
平穏期・安定期 | 緊張度が高い時(災害時や危機の時) |
信頼感がある時 | 出会ったばかりで信用度が低いチームの時 |
共有の価値観がある時 | 価値観がバラバラな時 |
意見を出し合えるメンバーの時 | 自発的に意見が出ない時 |
リーダーシップを発揮できる人材が多い時 | リーダーシップを発揮する人材がいない時 |
表を見るとわかるように、例えば救急法の演習時や災害訓練の時などは、参加者の1人を指名して「そこのあなた、119番に電話してください」などと指示したりします。その人に、「自分に言われているんだ!」と役割を理解してもらうためにそうしますが、災害時など強烈なリーダーシップが必要なときはこのように「指示的」な言動が役に立ちます。患者さんの急変時にも「あなた、これやって。あなたはこれ、何分でお願い」というふうに、指示的なリーダーシップを発揮する人がいると、混乱が防げます。
私は研修やプロジェクトチーム、委員会の顧問などもやりますが、就職したての新人研修のロールプレーでは、まだ気心が知れずに緊張しているので、「隣の人と2人組を組んでください。身長の高い方が話す係。もう一人は話を聴く係です。3分間で〇〇について話してください。」と指示的に明確に伝えます。
一方、管理職研修などではモチベーションも高く、経験も豊富な方々が多いのであまり指示せず、「近くの方と4,5人のグループを作って改善案をいくつかまとめてください。」と、場に任せるようにしています。ベテランの方々に指示的に関わると自発性を阻害され逆にやる気を失うことがあるので、非指示的の方が効果的だったりします。
このように、「人を見て法を説け」のことわざに習って、「状況や相手の気質に合わせて優しさと厳しさを使い分けて対応する」ことが相手の能力を引き出すことができるコツだと思います。
まとめ
通常は「非指示的な要素が強い優しい人」や「指示的な要素が強い厳しい人」など、普段の行動は一方に傾いているものです。しかし、不安が強い患者さんの入院の受け入れは非指示的に、治療に対して決断が必要な時には指示的になど、「優しさ」と「厳しさ」を使い分けることができたら看護の現場でもコミュニケーションの幅が広がりますよね。
このコラムを読んでくださっている方々の中には、すでに意識的に使い分けているという方もおられることでしょう。釈迦に説法だったらごめんなさい。患者さんやそのご家族、そして部下に信頼されているベテランの看護師さんほど、この使いわけが上手くできているように感じます。
また、日々の仕事で感情が揺らぐことが多くて悩んでいる方には、「今は「非指示的」な対応をしよう」などと意識的にこれらを使おうとすることをおすすめします。自分自身を「分離状態」に保つことができ、思考優位で冷静に過ごせるようになりますよ。
ここまで読んでくださりありがとうございました。 次回の更新もお楽しみにお待ちください。
Profile
奥山美奈
TNサクセスコーチング 代表取締役
教育コンサルタント、ICC国際コーチ連盟認定コーチ、高等学校教諭(看護)、看護師
エルゼピアジャパンe-leaning 接遇、上手な叱られ方講師
メディカ出版キャンディリンク講師
組織を患者、スタッフが引きよせられる「マグネット化」するための支援を行う「教育コンサルタント」。主に管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチの認定を実施。
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コンサルティング実績
小倉第一病院、慈恵会病院、愛育会、竜操整形外科、鳩ヶ谷クリニック他
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著書
「共育コーチング」(日本看護協会出版会)
「新人・若手・学生のやる気と本気の育て方」(日総研 出版)
「対人力を磨く22の方法」(メディカ出版)
「看護学生のためのコミュニケーションlesson」(メヂカルフレンド社)。
取材、連載多数。
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