SEMINAR REPORT

「ホントは楽しい『育成面談と目標管理面談の正しい方法』」WEBセミナーの動画はこちら

ホントは楽しい「育成面談と目標管理面談の正しい方法」WEBセミナーを開催しました

2021年9月30日、クラシコによるWEBセミナー「ホントは楽しい『育成面談と目標管理面談の正しい方法』」が開催され、多くの看護師がオンラインで参加しました。

定期的にやってくる、育成面談や目標管理面談の時間。問題行動を起こす部下と話すのが憂鬱だったり、毎回膨大な時間がかかる割には成果が出なかったりと、悩みを抱えている管理職・指導職の看護師は多いはずです。

今回は、看護師経験があるコーチングのプロとして多数の医療機関で指導を行う奥山美奈氏を迎え、正しい面談の方法やテクニックを学びました。すぐに使える実践的な内容が詰まったセミナーの様子を、レポートでお伝えします。

Profile

奥山美奈

TNサクセスコーチング 代表取締役
教育コンサルタント、ICC国際コーチ連盟認定コーチ、高等学校教諭(看護)、看護師

奥山美奈

エルゼピアジャパンe-leaning 接遇、上手な叱られ方講師
メディカ出版キャンディリンク講師
組織を患者、スタッフが引きよせられる「マグネット化」するための支援を行う「教育コンサルタント」。主に管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチの認定を実施。

  • コンサルティング実績

    小倉第一病院、慈恵会病院、愛育会、竜操整形外科、鳩ヶ谷クリニック他

  • 著書

    「共育コーチング」(日本看護協会出版会)
    「新人・若手・学生のやる気と本気の育て方」(日総研 出版)
    「対人力を磨く22の方法」(メディカ出版)
    「看護学生のためのコミュニケーションlesson」(メヂカルフレンド社)。
    取材、連載多数。

育成面談と目標管理面談はどう違う?

腕を組んで悩む看護師

奥山さんが最初に説明したのは、育成面談と目標管理面談の定義について。その2つをしっかりと分けて行うことが大事と強調しながら、次のように語ります。

「まず育成面談は、問題行動の指導や看護師として成長してもらうための指導のための面談です。一方で目標管理面談は、あくまで目標に対する進捗の確認や、どのようにしたら目標を達成できるかを相談することが目的の面談です。

役割が全く違うので、これらを一緒くたにしてしまうと面談の時間がものすごく長くなったり、どうにも上手くいかなかったりします」

本来目標管理は、頑張っている人を応援するためのもの。目的自体はシンプルですが、苦手意識を持つ管理職が多いのが事実です。なぜ「やりたくない」「難しい」という気持ちを持ってしまうのか、その理由について次のように分析します。

「弊社のコーチングでは『感情を味方につける』ことをポイントにしています。常に『want to〜』、やりたいという気持ちで進めていくということですね。

目標は毎日意識するものなので、意欲をかき立てられる内容にする必要があります。目標管理が難しい大きな理由は、『その目標は相手が本当にやりたいと思っていることなのか』という問題があることです。wantではなくshouldになっている場合が多々あります。

面談のやり方の前に、まずは部下がその目標を本当に達成したいと思っているだろうかと考えてみてください。モチベーションがなければ達成は不可能なので、その場合はゴール自体を見直すというのが安全ですね」

高すぎる目標はNG。根底にある価値観を否定しないように

本の階段を登る人

奥山さんは、目標を設定すると今の状態とのギャップが生まれ、ストレスがかかる状況になることを指摘。そこで重要になる“フィードフォワード”という考え方について解説しました。

「モチベーションが続くようにするには『なりたい未来の姿からフィードバックする』ということが大事です。これはフィードバックではなくフィードフォワード、未来からのフィードバックと言われています。

フィードバックはダメ出しのようになりがちなのですが、フィードフォワードは必ず1回『あなたはこうなりたいんだもんね』と言ってから、足りないところを伝えるやり方です。フィードフォワードをするために、スタッフがどのようになりたいと思っているのかをつかんでおくことも必要ですね」

また、目標設定の際には根底にある価値観を大事にすることも必要不可欠だと言い、次のように続けます。

「そもそも何を目指すために目標を設定するのかということなんですね。設定する目標が、根底にある価値観とバッティングしないようにするのがとても大切なことです。

『一年後に営業課長になりたい』という方がいたのですが、当時は何の役職にも就いていなかったのでかなり無謀な目標設定でした。その方に『その目標を達成したときに何がありますか?』と聞いたら『家族をもっと幸せにできる』と。つまり、彼の根底にある価値観は家族を大事にするということなんですね。

ではそれをふまえて、この高い目標は妥当かと考えてみます。一年後に課長になるとしたら土日も休まず仕事をしなければいけないですし、金曜日は飲み会に参加したり遅くまで残ったりとなりますよね。

そうすると、ゴールを追っているときに幸せを感じられなくなってしまいます。そもそも家族を幸せにするためのゴールなのに、目標設定が高すぎるせいで幸せを感じられないと。この方は結果的に、来年は主任や営業の数字アップを目標にし、課長を目指すのは3年後となりました。

日々歩んでいるときにモチベーションが枯れないようにするのがとても重要で、目標が個人の願いとリンクしているのかを考える必要がある点が、目標設定の難しいところですね」

奥山さんが行うコーチングでは、30個の異なる価値観を自分が優先する順に並べ替えるという作業をするそう。どのような価値観を重視するかは人によって違うということを理解しておくのが、管理職として必須の要素であると言います。

「面談相手の部下が、自分(上司)が優先度を高くしている価値観を下に置いていたり、逆に下に置いているものを上に置いていたりすると最初はなかなか理解しづらいんですね。管理面談の難しさは、相手が大事にしているものを自分は大事にしていないというところにもあります」

管理職が押さえておくべき12のコーチングテクニック

たくさんの鍵から一つを選ぶ手

今回のセミナーでは、実際に管理職の看護師が行った理想的な面談の実例が2つ紹介されました。まずは「普段の仕事ぶりはいいが次のステップに進むための学会発表をなかなかしない」「他の人に仕事を頼めず超過勤務が多い」という中堅ジェネラリストへの目標設定面談について。

「この目標設定面談では全部で12個のコーチングテクニックが使われています。まずは先ほどの、異なる価値観を否定しないということ。プライベートを優先すること自体は否定せず、看護も熱中している習い事のように楽しんでほしいと考えています。

次は、本音を引き出すいい関係性を保つということです。これがうまくできていて、”リーダーになると習い事に支障が出るので今のままでいたい”という普段はなかなか言わない言葉を引き出せています。

そして、普段のきちんとした仕事ぶりからは考えにくいその発言に違和感を覚えて、看護師を目指した結果を聞いたみたと。とっても上手ですね。話を聞いて彼女はすでに目標を達成しており、次の目標になる新たなロールモデルを作っていく必要があると判断しています。

また『他のスタッフがたくさん仕事を抱えて大変そうなときあなたならどうする?』『患者さんが申し訳ないと思っていたらどう感じる?』など、ポジションチェンジも効果的に活用しています」

この他にも認知のゆがみを解消したり、葛藤の原因を確認したり、“メタモデルの質問”を行ったりと、様々なテクニックを使っており、最終的にこの中堅ジェネラリストは学会発表を行うことを決めたそう。

育成面談のポイントは、相手の土俵に乗せられないこと

そして次の例は、目標はすべて達成しているが普段の行動に問題がある看護師への育成面談です。家庭の事情で土日の勤務や研修参加ができないと強く主張する部下に対して、上司である課長がレベルの高い対応をする映像が紹介されました。

特に注目すべき箇所について、次のように解説します。

「『他のママさんたちも時間外の研修はやめてほしいと言っている』という発言がありましたが、これは彼女の面談なんですよね。こ「他の人も〜」と言われたときにそこに乗ってしまったり、話を逸らしたことに怒ったりしないようにする必要があります。『今は◯◯さんの話なのでいいかしら』と、脱線したら戻すのが大事です。

また『上も頑張っているっていうんだったら、私たちも頑張って参加しようかなってなりますけどね』とも言っていました。でも、これはあくまで彼女の考え方なんです。『あなたはそうなのね』と冷静に答えることが必要です。相手がいくら土俵に乗せようと思ったところで乗っていかない。これを意識してください」

面談を行う際は、相手に振り回されず冷静になることがポイント。その中で相手の矛盾点を見つけ、上手に話を引き出していく必要があると言います。

「『研修は内容的に自分が出る必要はない』という発言もありました。そのときに、課長はすかさず『じゃあ必要があるものは出席するんですね』と言っています。そしたら彼女は慌ててペラペラと話していました。少しずつ相手の門戸を開いていくのがとても上手にできている例です」

ほめ方・叱り方のコツを押さえよう。叱るときは必ず具体的に

談笑しながら歩く先輩・後輩看護師

面談を上手に行うには、ほめ方や叱り方にも技術が必要です。ほめる量と叱る量のバランスについて、以下のように説明します。

「部下が仕事に不満を持つ原因の一つは、我々上司が思いの外ほめていないことなんです。ほめることや承認することに当たるポジティブフィードバックと、注意することであるネガティブフィードバッグの黄金比率は、3:1と言われています。1つ注意するためには3つほめる必要があるということですね」

スライドにはほめ方・叱り方の例文が16種類映し出され、次のようにポイントを語ります。

「いいほめ方の一つは“無条件の肯定”です。例えば『あなたがくると病棟がパッと明るくなるよね』とか『あなたが頑張っていると私もやる気が出るよ』など、具体的な条件を何もつけなくていい、とても便利なほめ方のことです。いいことをした、悪いことをしたという条件に関係なく使えるんですね。

このほめ方をすると『ここにいていいんだな』『私は私でいいんだな』と思うことができ、自己肯定感やいわゆる“居場所感”のアップにつながります。

そこに具体的な条件や行動を入れていくと、さらに効果を上げることができます。ここにあるものだと、“委員会活動に積極的な後輩の肩を『がんばってくれてるね』とポンとたたいた”や、“プリセプターをしている後輩を『技術指導が丁寧でわかりやすいね』とほめた”などが該当しますね」

奥山さんによると、逆にやってはいけないのはただ一つ。それは曖昧な叱り方をすることだと説明します。

「『人としてどうなの?』など、条件が限定できない曖昧な叱り方をしてしまっては何をどう直していいかわかりません。研修に出てほしいとか土日の勤務をしてほしいとか、行動レベルで注意していくことが必要ですね」

自身の経験も織り混ぜて、さらに続けます。

「私が1年目の看護師のとき、婦人科と小児科の混合病棟で働いていたのですが、1階の婦人科外来が忙しくてよくヘルプの要請が来ました。あるときヘルプに向かうと、ドクターが『あんたじゃなくって他の人いないの?』と言ったんです。これは傷つきますよね。

なぜ他の人がいいのかと理由を聞いたら、実はアウスの介助をする人が欲しかったようなんです。でもこの言い方だと私の人格を丸ごと否定することになってしまいます。

『アウスの介助をしたことがある看護師さんをお願いしたい』と具体的に言ってくれれば人格否定ではなくなるし、病棟に戻ったときに上司に経緯を説明して「時間があるときに見学させてください」と伝え、最終的にこの問題を解決できますよね」

参加者からの質疑応答

講演終了後は、恒例の質問コーナーに。今回も数えきれないほどの質問や相談がチャットで届きました。そのうちの一部をご紹介します。


参加者:面談の時間や頻度はどれくらいにすればいいのか教えてください。

奥山さん:先ほどの育成面談の実例だと8分でした。おおよそ15分以内にするといいかなと思います。そうすると1時間で4人できるわけですね。

そこで大事なのは、事前準備をしっかりして臨んでもらうことです。自己評価をつけてきてもらうとか、自分なりの課題を見つけて書いてきてもらうなどをしておくと、時間短縮につながります。

前期・中間・最後の評価と3回に分けている場合が多いと思いますが、全部合わせて1時間ほどでできれば最高だと思います。そしてそれはあくまで目標管理面談で、育成面談は必要に応じてたまにやっていくということですね。

育成面談は、問題行動があった次の日など記憶が失われないうちにやるのがおすすめです。あまりたくさん話すことを溜めると、あれもこれもとなって時間がかかってしまいます。また、相手の土俵に乗せられないようにすることを考えても、1回10分くらいの短めがいいと思います。

参加者:面談時に部下が、ICレコーダーをわざと見えるように置いています。録音されていると思うとオブラートに包んで言うしかないのですが、どうしたらいいのでしょうか。

奥山さん:まず、面談での発言は録音されているものと考えたほうがいいと思いますね。実際に私もありました。

その点を考えても、これまで説明している通り人格否定はせずに「こういう行動をとってもらいたい」と具体的な内容をしっかりと伝えることが大事です。

世代によってはハラスメントが当たり前の環境で育ってきている場合もあり、昔上司や先輩看護師に言われたきつい言葉が耳に残っていることがあります。そういったものがつい出てきてしまうことがあるんです。ですので、面談や指導をするときはまず自分のマネジメントをすることが非常に大事です。

相手に乗せられて感情的になってしまう方は、まずは言い分をすべて聞いて、それに対する返しをセリフのように書いていき、ここの何が悪いかという点をきちんと分析してから話した方がいいと思います。

参加者:面談のときにほめる言葉があまり思い浮かばないときは、どうしたらいいですか?

奥山さん:いますよね、こういう方。これは子育てで悩んだときにソーシャルスキル・トレーニングの先生に教えてもらったことなのですが、「相手がやってしまうと困ること」を書いていくというのが効果的です。

先ほどの育成面談の例だったら「土日の勤務を全部断る」ですとか、「研修会に出ない」などが該当します。つまり「いいことをできたらほめる」のではなく「だめなことをやっていないだけでほめる」ということです。

やってはいけない行動を片っ端から書き出して、その行動をとっていないときにほめるというのを実践してみてください。

まとめ

苦手意識を持つ看護師が多い、育成面談や目標管理面談。両者の違いを正しく理解し、切り分けて実施することが欠かせません。また、価値観に合った目標を設定することや、具体的で改善につながるフィードバックを行うことが大切です。

参加者からは「スタッフの目標管理がshouldになってしまっていると反省した」「若い頃から『目標は高く!』と指導されていたが、正しくないことに気づいた」「相手の価値観を損なわないように、スタッフ一人ひとりが何を大事にしているか知る努力をしようと思った」などの感想が挙がりました。早速現場で実践し、管理職としてのスキルアップを目指してください。

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