SEMINAR REPORT
「人のやる気を引き出すコミュニケーション講座」WEBセミナーを開催しました
2021年8月24日、クラシコ主催のWEBセミナー「看護マネジメントサマーセミナー2021」の第三弾が開催。参加者は数百人にのぼり、今回も看護師長・看護部長・看護主任など、マネジメント層のナースが集まりました。
活気ある看護組織を作るために欠かせないのが、スタッフのモチベーション。しかし「いくら声をかけても部下がやる気を出さない」「試行錯誤して指導しているが反応が薄く、むしろ逆効果になっていそう」といった管理職ならではの悩みを抱えている人も多いはず。
今回の講演テーマは、部下との関わり方の大きなヒントになり、組織の活性化にもつながる「コーチング」。すべてを指示するのではなく、相手が自分の力で考え、気づくことを促す指導方法です。国際コーチング連盟の認定マスターコーチとして活躍する近藤真樹氏が、看護の現場にぜひ取り入れたいコーチングの考え方について講演しました。
Profile
近藤真樹
株式会社メディカルコミュニケーションポート 取締役
国際コーチング連盟(ICF)認定マスターコーチ
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講師略歴
横浜国立大学教育学部卒
神奈川県立ゆうかり養護学校・鎌倉養護学校:初等部教論・中等部教諭
(株)IBD
(株)コーチ・トゥエンティティワン(現コーチA)
(株)コミュニケーションファンデーション設立
(株)メディカルコミュニケーションポート取締役
主に医療関係の組織や団体を対象に、組織のコミュニケーションの活性化やコミュニケーションスキルアップ研修を実施している。また、大手企業、中小企業、官公庁、教育関係など今までに200社以上の実施経験を持つ。
エグゼクティブ・パーソナルコーチングは1000名以上に実施、継続しているその中でも、医師や看護管理職等、多くの医療従事者とセッションを行っている。
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主な実績
岡山大学医学部・看護部、神奈川県立こども医療センター、神奈川県立保健福祉大学
千葉リハビリテーションセンター・千葉子ども病院等多数
文部科学省、東京都庁、公安調査庁他
医療現場の課題と、看護におけるコーチングの可能性
近藤さんがまず語ったのは、日本の医療現場の現状について。糖尿病専門医でコーチングの指導も行う石井博尚医師の言葉を借りながら、次のように説明します。
「石井さんは、医療現場ではさまざまな問題が深刻化しており、スタッフは一生懸命やっているのにとても大変な思いをしていると言っています。今はコロナの影響で行政からの要求もたくさんありますし、なんとかしたいのに解決できないという問題が多いはずです。
ただ、石井さんも言っているように、看護師をはじめとする医療従事者自身のコミュケーション方法にも疲弊の原因があると考えられます」
医療従事者にとって課題になりやすいのが、患者とのコミュニケーション。ここにストレスを感じる看護師も少なくありませんが、コーチングを導入することのメリットと可能性について次のように語ります。
「コーチングのメリットは、うまくコミュニケーションが取れることだけではありません。2010年には糖尿病の発症とコーチングの関係性が取り上げられており、“コーチングを用いたライフスタイル改善への働きかけが、薬の内服よりも効果的だった”という結果が出ています。
このように慢性疾患の患者さんへのアプローチとしても機能しますし、看護師どうしのコミュニケーションに用いるのも有効です。相手に行動変容を促したいときにコーチングがいいということで、ドクターたちの中で取り入れた例もあります」
また、コーチングを行うことで離職率の低下も見込めるそう。辞める社員が非常に多かった医療機器販売メーカーでコーチングの研修を行ったところ、離職率が16%から6%に減少。離職防止にもコーチングが有効であるというデータが出ています。
どんな領域・相手でもコーチングは有効?
ただし、コーチングを取り入れる際は有効な領域を知っておくことが大切です。近藤さんは次のように説明します。
「コーチングは、どんなところにでも活用できるわけではありません。十分な効果を発揮するのは、重要度が高いけど緊急度は低いという領域に対してです。たとえば、オペ室の看護師が手術中に『次は何をやったらいいと思う?』とコーチングするのは不可能ですよね。
重要なのに、急ぎではないせいできちんと考えられていないことがたくさんあると思います。そういったところに効果的にアプローチできるのがコーチングです」
さらに、相手に合わせてコーチングとティーチング(具体的な指示)を使い分けることも大事なポイント。
「新人看護師に指導するときに気をつけなければいけないのは、ティーチングばかりしてしまうことですね。指示待ちの傾向が強くなるので、ある程度自分で考えてもらうために適度なコーチングも必要です。
一方、皆さんのように役職・経験・実績がある方は自分で考えて実践する能力をしっかりと持っています。コーチの役割はその能力を引き出し、整理していくことなので、このような層には特にコーチングが有効と言えます」
コーチングの3原則は「双方向性・継続性・多様性」
では、具体的にどのようなコミュニケーションがコーチングに当たるのでしょうか。近藤さんは次のように説明します。
「コーチングというのは、次の3つの条件を満たしたもののことを指します。一つ目は、双方向性のあるコミュニケーションであること。一方的に話すのではなく、キャッチボールが成り立っている状態がコーチング的なアプローチです。
そして二つ目は継続性があること。継続性というと時間がかかるイメージを持ちそうですが、そうなんです。一度だけコミュニケーションを取るのではなく、長く継続的に関わる必要があります」
継続性が重要であることの根拠として紹介されたのが、「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれるもの。人間は時間の経過とともに忘却してしまうという研究結果で、20分経過すると聞いた話の内容のうち約40%を、さらに1時間経つと半分以上を忘れてしまうとのこと。
忘れるのは当然なので「前にも言ったでしょ!」と怒ることは決してせず、同じ話を違うタイミングで何度かする必要があると近藤さんは語ります。
「そして三つ目は多様性で、相手によって伝え方や聞き方を変えるということです。イメージとして、キャッチボールがうまい人にボールを投げるのと、あまりうまくない人に投げるのでは全く投げ方が変わってきますよね。相手が取りやすいボールを投げるという意識が重要です」
さらに、コーチングの具体的な方法について次のように説明します。
「コーチングには話し手と聞き手がいて、みなさんは基本的に聞き手です。まずはその人が一番いい状態だとどういったことが可能なのか、そのときにチームはどのような状態になれるのかという理想的なゴールを、会話しながら引き出していきます。
次に現状を確認して、今ある課題をどう改善したらゴールに近づけるかという話をしましょう。理想と現実のギャップを明らかにすることで、その人の具体的な行動を引き出していくというのがコーチングのサイクルです。
そしてコーチングには傾聴・承認・質問をはじめとする数多くのスキルがありますが、上記のようなサイクルにのっとってこれらのスキルを使うと、相手が自分の話をしながら自分で気づくことができるんです。
コーチのほうが鋭い質問をしたり、キレのあるフィードバックをしたりするのが効果的なのではありません。相手が気持ちよくオート・クライン(自分の話を聞いて自分で気づくこと)できる状態を作れるかというのが求められるスキルです」
また、近藤さんがコーチングサイクルの中で非常に重要と話すのが、会話の前にある“セットアップ”という段階。サイクルがうまく機能するかどうかの8割を決めているそうです。
「セットアップとは、相手が自分に対して安心して話せるような信頼関係を築くことです。相手にとってあなたは評価者ですから、気を許してなんでも話そうという気持ちにはなかなかなれません。時間をかけて距離を縮め、自由に話してもらえる状態を作っていくことがとても大事ですね」
コーチングは未来を拓くためのコミュニケーション
近藤さんは、コーチングの特徴とメリットについて次のように語ります。
「コーチングが通常のコミュニケーションと違うところは、未来を拓くコミュニケーションである点です。普通は何かが起こったら『どうしてそうなったの?』と過去に向かって原因を追求をしますよね。
一方でコーチングは“未来志向型アプローチ”や“能力開発型アプローチ”と言われますが、これは『そのミスをなくすためにどんなことを工夫できますか』『何があったらもっとうまくいくと思いますか』といったように、次に向かって可能性を広げていくものなんです。
その人の内側にあるやる気を引き出して、ポテンシャルを上げていくことにつながると思います」
部下のモチベーションやスキルを向上させるには、自ら気づき考えてもらう状況を作ることが大切です。成長につながるアプローチができるよう、日頃のコミュニケーションの取り方を見直してみてはいかがでしょうか。
参加者からの質疑応答
このセミナーの見どころの一つは、講演中にチャットで質問や相談を送り、その場で具体的な解決方法を教えてもらえること。今回も「ためになった」と大好評だった回答の一部をご紹介します。
参加者:
自分が褒められるのが苦手なので、白々しい気がしてうまく人のことを褒められません。何かいい方法はありますか?
近藤さん:
調査の結果でデータとしてはっきり出ているものですが、若い人がどんなときにやる気になるかというと、一番は“上司から仕事を任されたとき”、そして2番目が“上司から褒められたとき”なんです。
まずは自分自身やご家族など、身近な人を褒めることから始めてみましょう。私もたくさん練習しましたし、かなりトレーニングが必要なことだと思います。
相手の名前を呼んであげたり、「あなたは今日これをしてくれたのよね」と事実を伝えたりするだけでも、それはコーチングにおける“承認”になります。無理に結果を褒めようとしなくても、相手を観察して見たことを伝えるだけでいいんです。
参加者:
大学病院に勤務する看護師です。部下が「もう少しゆっくり患者さんと関わりたい」「自分のやりたい看護分野ではないので辞めたい」と言っています。相手がこのような状態の場合、どのようにコーチングしたらいいのでしょうか。
近藤さん:
「辞めたい」と発言する方には2種類います。まずは本当にその気持ちがあって、もう次の場所も準備しているパターン。これは男性に多い傾向があります。一方女性の場合は「自分はここにいていいんだろうか」と疑問を持ったり、「私は周りに認められていない」と感じたりしたときにそう言う方が多い印象です。
そのような相手には、まず今の仕事のどんなところにやりがいを感じているのかを聞いてみてください。そしてそのやりがいと、組織が役割としてその方に求めていることの交差点を探してあげましょう。相手がやりたいことと組織が求めていることが重なっている箇所を、いかに探していかに伝えていくかというのが大事です。
参加者:
何かを言うといつも沈黙してしまうスタッフがいます。どのように対応したらいいのでしょうか?
近藤さん:
沈黙にも2つ種類があって、一つは単純にどうしたらいいかわからなくて黙っている場合です。もう一つはサイレントコントロールというもので、「察してほしい」という意図で黙り込んで相手に考えさせ、自分の言葉では伝えません。
たとえば夏場に「暑いんですけど!」と言う人、これもサイレントコントロールですよね。「温度を下げてください」というのは言わないで、無言で要求しています。
上司としては、本当にわからないのか、それともこちらに要求しているのかというのを見極めるのが大事です。そして何か言いたいことがあったら自分できちんと伝えるということを、こちらがしっかり示さないといけないと思います。
参加者:
いくら褒めても「そうですかね」と笑顔で返すだけのスタッフがいるのですが、どう声をかけるべきなのでしょうか。
近藤さん:
承認のレパートリーを増やすことをおすすめします。たとえば「今日のコーディネートいまひとつだったな」と思っているところに「素敵な服ね」と言われると疑問に思ってしまいますよね。でも「“私は”素敵だと思う」と言われたらどうでしょうか。
「あなたってこうよね」と決めつけるのではなく、「私にはこう思えるよ」「私にはあなたのこういうところが魅力に感じるよ」と「私」の責任で伝えると、褒められるのが苦手な人でも比較的受け入れやすくなります。
そして、その人自身ではなくその人がやった仕事の成果を褒めるという方法もあります。「あなたはすごいね」ではなく、「今回のプロジェクトはすごくうまくいったね」とか、「君の育てた子たちは活躍してるね」といった言葉であれば素直に受け取れそうですよね。
参加者:
コーチングをされる側です。いつも上司がコーチングをしてきますが、自力で解決できないレベルのことはティーチングで指導してほしいと感じています。とても苦しいのですがどうしたらいいでしょうか。
近藤さん:
そういうケースはとても多くて、コーチングを導入された企業でよく起こります。困ったときは「ここまでは自分で考えたのですが、この先はぜひ教えてください」と伝えるのが一つの手だと思います。コーチングする側はあなたに考えさせたいと思っているので「全部教えて」と言ってしまうのはよくないんです。
コーチングを始めたばかりの上司はそのようになりがちなので、すべてを聞くのではなく「自分でもこんなふうに考えたんだけど……」と伝えてみてください。
まとめ
ひとくちに「コミュニケーション」と言っても、その方法はさまざまです。状況や相手を考えながら上手にコーチングを取り入れれば、効果的な指導につながるでしょう。
参加者からは「黙りこくってしまうスタッフに困っていたが、対処法を聞けてよかった」「相手との距離をどのように縮めていけばいいか、具体的な行動に移せる答えが見つかった」「コーチングをする側だが、自分自身もコーチングを受けていきたいと思った」という声が聞かれました。
今回の内容を看護の現場で生かし、ぜひ組織作りに役立ててください。
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