COLUMN

第四回は患者さんや仕事で外部の方と関わる時に必要な、基本的なビジネス・マナーを一緒に学んでいきます。

ビジネス・マナー、きちんとできていますか?

「はじめまして」と書かれた名刺を差し出す不安そうな看護師

企業の新人教育は『ビジネス・マナー研修』で始まることがほとんどです。名刺交換の仕方や電話対応、上座や下座といった席次。また、お客様やビジネスで関わる方々に対面したときの基本的なマナーから、メールやビジネス文書の書き方といったことまでを就職してすぐにみっちりトレーニングされます。それは、就職したスタッフは「会社の顔」になるからです。

私は、病院の新人教育で接遇研修の依頼をたくさんいただくのですが、「一時間でお願いします!」など時間の制約が多く、名刺交換やメール、ビジネス文書のマナーなどに触れることはほとんどありません。これらの内容は、病院では新管理職研修などで伝えられることがほとんどなのが現状です。
しかし、地域連携や多職種協働が叫ばれている昨今では、管理職といった役職にならずとも、地域の勉強会や研修会で他の病院の方々と関わったり、退院調整等で他の施設の多職種の方々と関わったりすることもありますね。

入院中の患者さんやご家族は、やはり我々医療者には気を遣っていることが多く、我々のマナーが多少悪くとも何も言わずに我慢してくれていることがほとんどです。それは入院中に「冷たくされるんじゃないか」とか、「注射や処置などを痛くされるんじゃないか」などの不安を持っていらっしゃるからです。

私も自分が入院したときは、ちょっと怖い感じの看護師さんに気を遣っていたことがありました。「寒いな…」と思っても怖そうな私の受け持ちの看護師さんのときは我慢し、夜勤で交代した優しそうな看護師さんに毛布を借りたりしました。次の日、「なんで私がいるときに寒いと言ってくれなかったんですか」と受け持ち看護師さんに言われましたが、さすがに「怖いからです」とは言えません。「忙しそうだったので…」とだけ伝えましたが、患者さん側の本音はこうしたものが多いのかもしれません。

しかし、退院調整などで地域の多職種の方々と関わる場では、患者さんやご家族のように我慢はしてもらえません。そして、他病院の方々と関わる場でも我々のマナーの良し悪しはしっかりと相手に見られています。特に企業で活躍している方々と接するときに頭に入れておかないといけないビジネスマナーは、本来は新人教育で習うような「あたりまえの常識」です。それを我々医療者は必要な時までに「教わっていない」ということが、大きなネックとなってしまっているのです。

そこで本稿では、患者さんをはじめ、多職種や他病院との連携やビジネスパーソンと関わるときに必要な、基本的な「ビジネス・マナー」をお伝えしたいと思います。

あいさつは、「後先後礼」と角度が重要。表情管理にも注意!

「受け持ち看護師の奥山美奈と申します。よろしくお願い致します。」
患者さんへ最初のあいさつをするときを思い浮かべてみましょう。正式なあいさつはセリフを言い切ってからお辞儀をする「語先後礼」というものです。相手の目を見て、言葉を言い切ってからお辞儀をします。

また、日本はお辞儀の角度で相手に礼節を尽くすという風習もあります。お悔やみを申し上げたり、お詫びなどをしたりする時は45度で深々と、通常の丁寧なあいさつのときは30度で、軽い会釈は15度で、というふうに場面に合わせてお辞儀の角度を調節する。これがスタンダードです。

通常のあいさつはニッコリと笑顔ですることが基本ですが、我々の現場では笑顔がふさわしくないシビアな場面も多々ありますね。患者さんが急変し転院なさるときや、死亡退院等のときのご挨拶では真摯な態度が求められるので、表情管理も大切なマナーとなります。

「物の指し示し」の的確な言葉かけと動作を身につけよう

患者さんに物の指し示しをする看護師 患者さん「〇〇はどこですか?」看護師「ここをまっすぐ進んだ突き当たりです(背中を取られず、遠くは真っ直ぐ・近くは小さく指し示す)」

「すいません、5D病棟ってどう行くんですか?」「検査室ってどう行きますか?」などと患者さんやご家族に尋ねられることもよくありますね。この時、場所や方角の指し示し方にもルールがあります。

ご案内する相手に背中を取られずしっかり向かい合い、指先を揃え、目指す方向を腕と手を用いて指し示します。近い場所なら腕の角度は小さく、遠い場所なら角度をつけずに腕を伸ばして示します。

「こちらに掛けてお待ち下さい」などの案内なら、すぐに座れるように椅子を引いて差し上げます。皆さんも尿検査の紙コップなどを患者さんにお渡しするときは「こちらをお使いください」などと声をかけていらっしゃると思いますが、物の指し示しのときは「指し示し+言葉がけ」でより丁寧な印象を相手に与えることができます。

「物の授受」と「名刺交換」のマナーは基本的には同じでOK!

「ちょっとカルテ取って」「そこの資料、一部回して」など、相手に何かをお渡ししたり、逆にこちらが何かを受け取ったりすることもよくありますね。ビジネス・マナーではこれらを「物の授受」と表現します。

そして、ちょっとしたルールもあります。腰よりも上の高さで、両手で言葉を添えて物の受け渡しをするというもの。カンタンですね。学生のころの卒業式を思い出してみてください。卒業証書をもらったときにも、腰よりも上の高さで、しかも両手で受け取りましたよね。そして一歩下がってお辞儀。そうです、あの感じ。ありがたいものを頂戴するときのお作法は「腰よりも上の高さで頂く」。

物をお渡しするときも、腰から上の高さで両手を使ってお渡しするのが基本ですが、手がふさがっている時など、どうしても片手でお渡しせざるを得ないこともありますね。そんなときは「片手で申し訳ありません」と一言添えれば大丈夫なんです。
そしてもうワンポイント、ボールペンを貸してもらえますか」と人からお願いされた場合は、相手がすぐに使えるように持ちやすさを考えてお渡しするなどの配慮ができれば更に素敵です。

名刺交換のときにも、基本的にはこちらの「物の授受」の法則で行います。

名刺交換をする看護師と会社員 看護師「ちょうだい致します」

基本は相手が差し出した名刺を両手で受け取るようにしますが、こちらも名刺を持っていて同時に交換する場合もあります。同時交換の場合は上のイラストのように相手の名刺入れの上にこちらの名刺を差し出し、こちらの名刺入れの上に相手のお名刺を頂戴するようにしましょう。頂いた名刺を見てお名前が難しい漢字の場合は「○○さんとお読みしてよろしいでしょうか」と交換した相手のお名前の読み方を確認するなどコミュニケーションを深めるようにします。

また、基本的に物の授受は机の上では行わないというルールもあります。狭い会議室で資料をやり取りするときや名刺交換をするときなど、机の上で行わざるを得ないことも多々あります。そんなときは「机の上から失礼致します」と、ここでも「一言添える」ことができればOKです。カンタンですね。

電話対応は顔が見えないコミュニケーションだからこそ大切に

医療者とビジネスパーソンのマナーを比較すると、一番の差がある部分は電話対応かなと私は思っています。病院では内線電話が多いので「はい。2階です」といきなり部署名を言っても通じます。しかし、それがクセになってしまっていて同じように外線電話を取ってしまうと相手はびっくりしてしまいます。病院以外の場所では、例えば「TNサクセスコーチング株式会社 総務課の奥山です」というふうに「会社名+部署名+名前」がセオリーだからです。

病棟が忙しい場合、早く対応して患者さんのところに行かないと!という思いが強く、ワンコールで電話を取る方もいらっしゃいます。外線の電話も同じようにワンコールで取ってしまうと、電話先の相手をちょっとびっくりさせてしまいます。電話をかけている相手も「なんて切り出そうかな」などと考えていることもあるので、2コールで取るのがいいと思います。
また、立ちながら電話を取って話していると、どうしても早く切りたいという気持ちになることもあるので、特に外線電話の対応は座って、メモを取りながら、できるだけゆっくり応対するといいでしょう。

顔が見えないだけに電話でのコミュニケーションはとくに慎重に。内線電話のクセは結構しみついていて、急には変えられません。なので、異動で対外的な電話対応が多い部署に移ったときに「○○さんの電話対応が悪い」とクレームにつながってしまうことがあるのです。ちょっとしたことかもしれませんが、こうした電話対応がきちんとできると、相手も「あの人の対応はしっかりしているな」と思ってくれ、できる・できないが大きな差となって映ってくるものです。

メール文書はユーザビリティを意識して作成しよう

メールをパソコンで打つ写真

病院や施設で働いていると、対外的にメールでやり取りすることは、あまりないかと思います。だからこそ、メールでのやり取りが多い方々と接したときにビジネス・マナーの差が出てしまいます。私は病院関係の方々からのメールがすぐにわかります。なぜかというと、件名が入っていなかったり、署名がなかったり、重要な人をccに入れていなかったり、改行をせずに長い文章が送られてきたりするメールだからなのです。ちょっと残念ですよね…。

公文書と違って、メール文書の場合は流行のようなものもあります。改行の仕方などは正式な文書とは違って、見やすくするために15文字で改行したり、読むことのストレスを減らすために文脈ごとに数行の空間を入れたりといろいろと進化していたりもします。相手がメールをパソコンで読むのか、スマートフォンで読むのかによって改行を変えたりする人もいます。根底にあるのは「ユーザビリティ」。「ユーザビリティ」とは相手が読みやすいように工夫をすることを言います。件名を入れたり、署名を付けたりということも相手の時間を奪わないようにするための配慮です。

件名が入っていれば、忙しい朝のメールチェックの時間でも「あ、この件は今日中に返事をしないといけなかった」とざっと内容を把握することができます。件名が書かれてないとメール文書を最後まで読まないといけません。署名をしていないと相手の組織に電話をしたりするときに、いちいち連絡先を調べなくてはいけません。それだけ相手の時間を奪うことになります。

企業というところは「利益を生み出し社会を豊かにする」ことがミッションですから、ビジネスシーンでは「時は金なり」なのです。そのため、相手の時間をいかに奪わないかということを大切にします。逆に言えば、こちらが忙しいのを理由に件名を入れない、署名をしないという人はマナーがなっていないと思われますし、付き合えば付き合うほど時間を奪われる相手と見なされ、仕事で関わりたくないというふうに思われてしまいます。

まとめ

これからの時代は、病院といった枠組みに囚われずに我々医療者も大きなフィールドで活躍することが求められています。特に、今後需要が高まる地域包括医療などを実現していくためには、在宅医療を行っている組織や介護施設、地域の事業者とますます連携していかなければなりません。「郷に入れば郷に従え」ですから、関わっていく相手の大事にしているマナーをこちらも大切にするという姿勢が多職種や地域と協働していく上では何よりも大切となっていき、選ばれる人となっていくと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。次回の更新も楽しみにお待ちください。

Profile

奥山美奈

TNサクセスコーチング 代表取締役
教育コンサルタント、ICC国際コーチ連盟認定コーチ、高等学校教諭(看護)、看護師

奥山美奈

エルゼピアジャパンe-leaning 接遇、上手な叱られ方講師
メディカ出版キャンディリンク講師
組織を患者、スタッフが引きよせられる「マグネット化」するための支援を行う「教育コンサルタント」。主に管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチの認定を実施。

  • コンサルティング実績

    小倉第一病院、慈恵会病院、愛育会、竜操整形外科、鳩ヶ谷クリニック他

  • 著書

    「共育コーチング」(日本看護協会出版会)
    「新人・若手・学生のやる気と本気の育て方」(日総研 出版)
    「対人力を磨く22の方法」(メディカ出版)
    「看護学生のためのコミュニケーションlesson」(メヂカルフレンド社)。
    取材、連載多数。

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