COLUMN

対談のお相手:青森慈恵会病院 丹野雅彦院長
インタビュアー:奥山美奈さん

奥山:「院長のトリセツ」シリーズ記念すべき第一回目は、青森慈恵会病院の丹野雅彦院長です!どうぞよろしくお願い致します。
丹野院長:あははは、何しゃべったらいいんだろ(笑)。よろしくお願いします。
奥山:この対談は『周りのスタッフにどんなふうに対応されたら元気に機嫌よく、よい診療ができるのか?』『病院の運営に対して先生の思いや考え』を院長自身が生の声で伝えるという画期的な企画でございます!
ぜひ、先生ご自身から『俺のトリセツ』をご紹介ください。
そして先生のこの記事を読んだコメディカルの方々が『じゃ、うちの院長の思いや考えってなんだろう?』と、自院の経営陣の「思い」や「考え」を知りたいとなってくれたらいいなと思っています。では丹野先生、どうぞよろしくお願い致します。

院長のトリセツ①職員同士がリスペクトしあって仲良く働くこと

丹野院長:基本的にはですねぇ。やっぱり職員同士にはみんなに仲良くやってほしいってことですかね。
多職種同士リスペクトし合ってどこかで失敗しても批判するってばかりじゃなくて補完し合うっていうかね、さらにそういう組織になればいいなって思います。
少なくともそういう組織だと俺にグチが集まらないかなって。(笑)
奥山:先生のところには話しやすいからスタッフからのグチも集まるとお聞きしてます。
丹野院長:そうなんですよ。ってか『なんで俺なんだ!?』ってね(笑)。俺じゃなくて部署の同僚や上司は聴いてくんないのかって思いますよね。
中堅はまあ「グチ」を言えるとしても、新人なんかはもう、上が優秀すぎて話すこともできないみたいなのじゃなくてグチだって上司に相談できるような組織がいいと思ってますよ。
そんな、すごくなくていいんですよ、普通でね。でも、しっかり患者さんを看てるって病院になりたい。
それには、まずは上司の側にがんばってもらって、さらに部下が話をしやすい雰囲気をつくってくれたらなって。
少なくとも俺がグチを聴かなくていいからもっと「自分の仕事(医師の仕事)ができる」って思いますよね。
奥山:なるほど。先生の病院のスタッフの皆さんは、すごく話も聞き上手で組織内コミュニケーションも良好と感じます。
数年前にお邪魔したときよりも、さらにいろんな課題が解決されていらっしゃいますよね。
丹野:それはそうですね。なかなかいい組織になってきたなって思います。上司が部下に関心もって関わってるって思うしね。
看護部によく実習生がくるんですけど、実習生が慈恵会じゃ『学生さん』でなく名前で〇〇さんって呼んでくれるので、すごく嬉しかったとか言ってましたね。
そういう動きが採用に結び付いてきてるし、なかなかいいなって。
さらに言うなら、「〇〇さんにあこがれて就職しました」っていう新人が入ってきたとき、〇〇さんに「あなたのおかげで一緒に働く仲間が増えて本当によかった。ありがとう」とか、もっともっと祝福してほしいなって思いますね。
そういうのを感じられたらもう俺は『皆さん、すばらしいです。ありがとうございます!俺はもう何にも言うことありませんから全部よろしくお願いします』って診療に集中しちゃいますねー。(笑)
奥山:(笑)。それはすばらしいですね。そんな先生の姿、見てみたいです。

院長のトリセツ②まずは患者さんにもスタッフにも「あいさつ」を徹底すべし

丹野院長:まずはもっと「あいさつ」しなきゃ。
奥山:ありゃ(汗)。先生の病院の接遇研修は、私がさせてもらっているので「あいさつ」の大切さ、お話ししているつもりでしたが、、、。まだまだですかね、すいません!
丹野:いや、他部署とかであまり知らないスタッフにまだまだお互いに「あいさつ」できてないって思うんですよ。
やっぱりね、日ごろのコミュニケーションっていうかね、そういうベースがあれば、誰かが失敗したりとかしたときに助け合うことができるって思うんですよ。
失敗が有事にならないで済むっていうかね。それはスタッフ間もそうなんですけど、患者さんには特にね。以前は、患者さんにタメ口のスタッフとかもいました(汗)。
結局はそういうスタッフは辞めていくんだけどね。普段は我々の接遇が悪くても、ある程度は患者さんもガマンしてくれてるんだけど、何かちょっとしたことがあった瞬間、患者さんの怒りが爆発しちゃって、スタッフへのクレームになる。
以前、患者さんから激怒されたスタッフがいたんですけど、別に本人は悪気があったわけじゃなくて習慣として(誰にも注意されなかった)タメ口だったから、もうびっくりしちゃってそのクレームで逆にPTSDみたいになって退職を余儀なくされてしまったということがありましたね。
そうなると本人がもうかわいそうなんですよ。いいところだってたくさんあるんだけど、クレームのところだけがクローズアップされて。
だから、接遇がいまいちってスタッフには、普段から言ってやんないとって思って、まずは、俺が「あいさつしろ!『です、ます』って敬語使え!」って言ってるんですよ。

院長のトリセツ③「です、ます」と敬語を使い、丁寧に接すること

奥山:「あいさつしろ!『です、ます』って敬語使え!」って、ですね(笑)
丹野院長:ありゃ、これも上からか(笑)。あははは。
でもそうなんですよ、「この患者さんどんな人生送ってきたんだろうとか、ご家族はどう思っているんだろうとか、患者さんの人生に関心もてたらそんなふうに(タメ口などの横柄な態度)にならないと思うんですよ。
『その人、昔、校長先生だったんだぞ、でっかい会社の重役だったんだぞ、上から目線になるなよってね。』そういう患者さんってそれなりのステイタスがあって生活してきてるんだから、丁寧に関わらないと訴訟とかに発展することもある。
だから基本的なこと(『あいさつ』『です、ます』の敬語を使うこと)ができてなきゃいけないんですよ。

院長のトリセツ④相手のストーリーに関心を持ち、決して「上から目線にならない」こと

丹野:ともすれば我々医療従事者は「〇〇さん、そんなことしちゃダメでしょ!」とか学校の先生やってたような人に20代の若者が言っちゃうようなとこあるんですよ。
だから、「治してやってる」みたいになるなよって、釘さしてやってるんですよ。
くり返しになるけど、基本的にこの患者さん「どうしてうちに来たんだろう?」とか「どんな生活をしてご家族にはどんな思いがあるんだろう?」って相手に関心を持つことが接遇をよくすることにつながると思ってるんです。
慈恵会の理念でもありますけど、もっともっと『きてよかったな』って相手が思うような病院にしていきたいと思ってますね。
奥山:人に関心を持つという「あり方」がまなざしの優しさや態度になって表れるってことなんでしょうかね、、、。
丹野:そうです。そんなふうにやってたら決して「上からにはならない」と思うんですよね。
それがなかなか難しいって人は、最低限「敬語」使うことから始める。マックでもやってるでしょ「いらっしゃいませ!」って。スペシャルスマイルで。
我々医療者はそういうとこ、ちょっと足りないですよ。
奥山:「あいさつ」に代表されるところですけど、医療者はなかなか「自分から発信する」って弱いですよね、一般の会社で勤めてるっていう人達から比べると。
丹野:そうなんですよ。でも、みんな一生懸命なんですよ。一生懸命なんだけど、会社員と違ってまだまだ基本的な接遇とかが弱い。
何かあったとき、タメ口きいてるような人間を患者さんって許してはくれないですからね。
奥山:先生は基本的に敬語ですし、ご自身から誰に対しても、あいさつなさいますし、とっても接遇力高いですけど、クレームとかそうしたものとは無縁だったんですか?
丹野:いや、ありましたよ!ご家族5人に囲まれてめちゃくちゃダメだしされたりとかね(笑)。
そういうことがあってひとつずつ「ああ、気をつけないといけないな」って。だから職員にもうるさく言うんですよ。
外国にはsorry worksっていう文化があって間違ってしまったらしっかり謝る。そういうのも大事な仕事という意識があるんだけど、まだまだ日本はそういうところ足りないですよね。
奥山:sorry worksって文化があるんですね。いい言葉ですね。
丹野:医療者は丁寧に「がんばります!」って誠実に仕事やるのが大事。そうやってたら相手にもそういう気持ちが伝わってこちら側もリスペクトされるんです。
今頃の医者の若いヤツなんかもそうしたことが全然なってないのいっぱいいるからね、ガツンと俺は言ってやるんですよ。
奥山:『です、ます』使えっ!ってですね(笑)
丹野:あははは(笑)。そうそう。『上からなってんじゃねぇぞ』ってね。正直、上司でも(特に年配の医者)は、接遇よくない人っているからね、自分がそうならないで、逆にその年配の医師たちの見本になったら『カッコいいだろ。そうなっちゃえよ』って言ってるんです。

奥山:先生、質問なんですけども、患者さんによっては敬語つかうとよそよそしいって思うような方もいらっしゃいますよね。
家族みたいな関係を求めていて逆にタメ口を求めるっていうか。そうしたとき、先生はどうしているんですか?
丹野:俺もたまにタメ口になっちゃうおばあちゃんとかいますよ(笑)。相手が求めてるときはね。
そういうのをうまく見抜いて接するのもコミュニケーション能力だって思うんですよ。でもそれがどんな人にもどんなケースでもタメ口ってなっちゃいけないんですよ。
これまで、患者さんのクレームとか職員同士のモメ事で辞めてったスタッフがいましたけど、その都度、「悲しいな」って思うんですよ。
患者さんでもスタッフでもせっかく慈恵会に来てくれたんだから「来てよかったな」って思ってもらいたい。
相手に関心もって丁寧に関わっていけばお互いをリスペクトできていい環境で働くことができるのにって。
そうなるためには、まずは基本的なところ。それは『あいさつ』だし、『です、ます』をしっかり使うってこと。親しき中にも礼儀あり。
これがちゃんとできてたら、まず、俺は安心して臨床に集中できるって思いますね。

院長のトリセツ⑤PDCAを回し、さらには専門職から医師にいろんな提案を!

奥山:最近、先生の名物である「PDCA回せ!」っていうのがほとんど聞かれなくなったと思うんですけど(笑)。それは、スタッフの仕事の質が上がったってことですよね。
丹野:だいぶ改善されてきたってのもありますね、おかげ様で。あんまりいいすぎてもよくないかなって、最近はあんまり言わなくなりましたね。
奥山:悟りの境地ってことでしょうか(笑)。
丹野:まあ、悟りってほどのことじゃないんだけど。俺が求めてる組織になってきたってのもあるけど、何度言ってもできない人もいますしね。
でも、その人も他の場面じゃそれなりに頑張っているとかあるんで一概には言えないのかなって。
奥山:なるほど、なるほど。ステキです。
丹野:医者はPDCAを診療で回してます。この患者さんはこういう症状だから治療目標はこれだな、やってみて様子みながら修正して結果をだすってふうにね。
だから医者にはあらためて「PDCA回せ」っていうことはないんですけど。
専門職へのリクエストはそこへ(医師へ)ただ黙って側にいるんじゃなくて、それこそいろんな「提案」をもっともっとしてきてほしいってのがありますね。
もっと専門職なんだから自信もってどんどん言ってほしいと思ってます。
奥山:もっともっと「提案」ができるような職員になってもらいたいってことなんですね。
丹野:そうそうそう。だいぶ理想の組織に近づいてきたなって思いますけどね。あとリクエストあるとしたらそこだけ。

まとめ

奥山:では、今回、丹野院長から伺った「俺が教える『院長のトリセツ』をおさらいさせて頂きます。

1)職員同士がリスペクトしあって仲良く働くこと
2)まずは、患者さんにもスタッフにも『あいさつ』を徹底すべし
3)『です、ます』と敬語を使い、丁寧に接すること
4)相手のストーリーに関心を持ち、決して「上から目線にならない」こと
5)PDCAを回し、さらには専門職から医師にいろんな提案を!

ですね。
これらがしっかりとスタッフの間で「できるようになった」なら、先生はそれを見ながら「皆さん、これまでホントにがんばってくれてありがとう!」といい仕事ができるっていうことなんですね!
丹野:もうそんなふうになってくれたら「もう、完璧です!皆さん、本当にありがとうございます。俺はあと何にも言うことありません!」って毎日「ハッピー」で「るんるん」で仕事しますよ!!
奥山:先生、しっかりと「思い」を受け止めました!とっても楽しい雰囲気でお話し伺うことができました。ありがとうございます。大変、名残惜しいですが、これにて「院長のトリセツ」記念すべき第一回目を終えていきます。

丹野雅彦先生、本日はご協力を頂き、本当にありがとうございました。

Profile

奥山美奈

TNサクセスコーチング 代表取締役
教育コンサルタント、ICC国際コーチ連盟認定コーチ、高等学校教諭(看護)、看護師

奥山美奈

エルゼピアジャパンe-leaning 接遇、上手な叱られ方講師
メディカ出版キャンディリンク講師
組織を患者、スタッフが引きよせられる「マグネット化」するための支援を行う「教育コンサルタント」。主に管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチの認定を実施。

  • コンサルティング実績

    小倉第一病院、慈恵会病院、愛育会、竜操整形外科、鳩ヶ谷クリニック他

  • 著書

    「共育コーチング」(日本看護協会出版会)
    「新人・若手・学生のやる気と本気の育て方」(日総研 出版)
    「対人力を磨く22の方法」(メディカ出版)
    「看護学生のためのコミュニケーションlesson」(メヂカルフレンド社)。
    取材、連載多数。

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