SEMINAR REPORT
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「パワーハラスメント予防講座」WEBセミナーを開催しました
2021年6月15日、クラシコによるWEBセミナー「看護マネジメントサマーセミナー2021」が開かれました。管理職として部下を抱える看護師に向けた内容で、過去2回の開催では「すぐに実践できる具体的な解決策を学べる」と参加者から好評を得ています。
今回のテーマは「パワハラ予防」。「部下を注意するとパワハラと言われてしまいそう」「物言いがきつく、何でも病院のせいにする部下に困っている」など、パワハラにまつわる悩みは様々。コロナ禍によって現場の混乱はさらに加速しており、スタッフの指導や組織マネジメントに大きな課題を感じている人は数えきれません。
一体どのようにしたら、パワハラを防ぎながら部下と良好な関係を築けるのでしょうか。病院の教育支援を行うTNサクセスコーチング株式会社の奥山美奈氏を講師に迎えて行われたセミナーの模様をお伝えします。
Profile
奥山美奈
TNサクセスコーチング 代表取締役
教育コンサルタント、ICC国際コーチ連盟認定コーチ、高等学校教諭(看護)、看護師
エルゼピアジャパンe-leaning 接遇、上手な叱られ方講師
メディカ出版キャンディリンク講師
組織を患者、スタッフが引きよせられる「マグネット化」するための支援を行う「教育コンサルタント」。主に管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチの認定を実施。
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コンサルティング実績
小倉第一病院、慈恵会病院、愛育会、竜操整形外科、鳩ヶ谷クリニック他
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著書
「共育コーチング」(日本看護協会出版会)
「新人・若手・学生のやる気と本気の育て方」(日総研 出版)
「対人力を磨く22の方法」(メディカ出版)
「看護学生のためのコミュニケーションlesson」(メヂカルフレンド社)。
取材、連載多数。
言い方がきつい人には2タイプある!正しい接し方を知ろう
奥山さんが上司が指導に困る部下のタイプの一つとして挙げるのが 「外罰的」なスタッフ。外罰的とは、何らかの問題が起こってストレスがかかったときに「原因は自分の外にあり、他人や環境のせいである」と考える傾向のこと。攻撃的な態度を取り、周囲に対して強い言葉を発してしまうケースが多く見られます。
「人間には、ストレスがかかったときに自分の心を守る仕組みが備わっています。防衛機制や適応機制と呼ばれるものです。この中に外罰と内罰(すべて自分のせいだと考える傾向)があるのですが、これらは無意識で起こるというのがポイントです。無意識なので、誰かにきつい言葉を投げているときも自分ではそう感じていない人が多いんです。ですのでまずは本人にそれを気付かせる、意識化させるというのが重要ですね」
しかし、ここで勘違いしていけないのは、言い方のきつい人すべてが外罰的であるとは限らないということ。
「よく誰かを怒っていたり、物言いがきつかったりしても、自分の中に問題があると考えている人は外罰的ではありません。原因は周りにあるという思考でなければ、すぐに改善に向かうことができます」
外罰的か否かの見極め方は、患者優先で行動しているか、優しさがあるかというのがポイントだそう。また、そのようなスタッフとの接し方について、次のように続けました。
「外罰的でなければ多少厳しくても周りの人はついていきますし、ちゃんとした教育や仕組みがあれば本人の振る舞いも変わっていきます。人事評価制度を使った面談などをしっかりしていくといいですね」
部下の指導に活用したい「ストローク診断」と「リーダーシップ診断」
では、すべて周囲のせいにしてしまう外罰的な部下だった場合は、本人にどのように気付かせればいいのでしょうか。ここで活用できるのが「ストローク診断」です。
自分がポジティブストローク(褒めること)とネガティブストローク(注意すること)をどれだけ与えたり求めたりしているかを、80の質問に答えることで診断できます。セミナーでは、外罰的で注意ばかりする事務職の女性と、内罰的で部下への注意ができない管理職の男性という対照的な2人の診断結果が紹介されました。
外罰的な人への指導について、奥山さんは次のように語ります。
「外罰的なスタッフは、同僚や後輩などには攻撃的である一方、管理職である自分にはいい振る舞いをするというケースがあります。そのせいで悪いところが見えづらく指導が難しいと悩まれる方が多く、フィードバックするためのツールとしてこのストローク診断を紹介しています。根拠となるものが何もない状態で指導するというのはとても難しいんですよね。診断結果を見せながら『ここの項目が高いよ』とか『褒めることがないと他の人から怖がられてしまうよ』などと伝えるのがおすすめです」
前述の通り、外罰のほとんどは無意識で起こるもの。スタッフへの聞き取りを定期的に実施して、いつどのようなことがあったか書き留めておくこと、そしてストローク診断を活用することが、自身の傾向に気付いてもらうのに効果的であるそう。
また、上司側のスキルや行動をチェックするために「リーダーシップ診断」も行うことを推奨。どれだけ部下に目標を達成させられているかという“パフォーマンス”と、集団をどれだけケアできているかという“メンテナンス”のバランスをチェックできます。
「調査をしただけでそのまま何もしないというのが一番良くありません。外罰的であるという診断がスタッフに出た場合、その人にはストレスマネジメントが必要ということになります。面談などでフィードバックをして、無意識で周りのせいにしていることが理解できれば、次から別の形で自分の心を守れるんです。まず無意識を意識に変えてあげましょう。その上できちんとした教育を与えて、褒め方や叱り方のスキルを身に付けてもらうべきです」
さらに具体的な対策として、人事評価制度の見直しについても提案しました。
「昨年6月に施行されたパワハラ防止法によって、特定の人がパワハラで訴えられたときに事業主も責任を問われるということになりました。病院全体を巻き込んだ問題に発展するのを防ぐ必要がありますが、最も早いのは、人事評価制度の中にハラスメントについての項目を設けることだと思います。私がコーチングしたある病院では、“ハラスメント予防に関しての基礎的な知識を持ち、自身もハラスメントとならない行動をとっている”という評価基準を2等級の人から設けることにしました」
パワハラを防ぐためには、聞き取りや診断を定期的に行いながら、病院全体で仕組みを作っていくことが欠かせません。
「パワハラ」の定義とは?病院特有のハラスメントにも注意
続いては、ハラスメントにならない指導をするために、パワハラの定義や具体例を確認していくコーナー。そもそも職場におけるパワハラとは、“①職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に②業務の適正な範囲を超えて③精神的・身体的苦痛を与える又は就業環境を害する行為”のことを指します。
「②の“適正な範囲を超えるかどうか”というところが肝で、パワハラになるかどうかの分かれ目です。また、最近はカスタマーハラスメントというものもあり、病院の場合は患者に対しても方針を伝えていく必要があります。上司からも部下からも、さらに患者からもパワハラとなると、立つ手がなくなってしまいますよね」
ハラスメントにもいくつかの種類がありますが、奥山さんによると医療従事者にはモラルハラスメントもよく見られるそう。また、医師によるドクターハラスメントや、話題になっているコロナハラスメントについてのお話も。一般的なハラスメントの知識を得るだけでなく、看護師という職業を取り巻く環境を理解した上で対策を取るべきと言えるでしょう。
その指導はパワハラかも。日頃のコミュニケーションを見直そう
“適正な範囲”を超えないために知っておきたいのが「パワハラ6類型」と呼ばれる分類です。「暴行・傷害」「精神的な攻撃」「人間関係の切り離し」「過小な要求」「過大な要求」「個の侵害」の6つがあり、いずれかに当てはまるとパワハラと認定されてしまいます。
パワハラ6類型に加え、「職場のパワーハラスメントチェック」と題した18項目のチェックリストも紹介。「必要な情報、指示を与えない(=人間関係の切り離し)」「突然、全く経験のない重要な業務を課す(=過大な要求)」など具体的なパワハラの内容が記載されたもので、奥山さんは「こういったリストを壁に貼っておくだけでも防止の啓発活動になる」と言います。
また、実際の裁判で雇用主側が敗訴した例を出しながら、注意をする場所や伝え方が重要であると説明しました。
「判例に“上司は具体的なことを指導することはなく、厳しいコメントを散発的かつ一方的に付すのみだった”とあります。この散発的というのは、『誰でも見られるところで』という意味です。たとえば看護記録の記載にミスがあり『意味わかんないんですけど』と書いたふせんを貼ってしまう。これは散発的なので、パワハラに該当してしまいます。周りの状況を考慮して伝えたかどうか、そして人格否定ではなく、具体的な行動を注意したかというのがポイントとわかります」
奥山さんいわく、ハラスメントを取り巻く状況はちょうど転換期。新たな法律がスタートした中で、ハラスメントか否かという線引きの基準になる過去の例を確認することも効果的とのことでした。
参加者からの質疑応答
オンラインで行われたセミナーは、チャット機能を使って質問や相談を自由に受け付けるシステムが。多くの参加者から届いたお悩みの一部と、奥山さんの回答をご紹介します。
参加者:看護師長さんが外罰的な場合、上司として効果的な指導はどのようなものでしょうか。本人は外罰的だという自覚はないようです。
奥山さん:今はGoogleフォームなどを使って誰でも簡単にアンケートを取れるので、それを活用して、まずはご自分を知ってもらうことですね。そして定期的にいろいろな人の声を拾っていれば、個人が特定されてしまうことも防げます。誰かが上司に直接相談したときに「◯◯さんと師長が2人っきりで面談してたよ!」と噂になってしまうこともありますので。
参加者:他の医療機関より主任として配属されましたが、外罰的なスタッフがいて、自分の不慣れさもあり対応に苦慮しています。具体的にどうしたらいいでしょうか。
奥山さん:思い切って弁護士保険に入りましょう。私もスクール講師のパワハラ的な言動に悩んで弁護士に相談したことがありますが、月980円ほどで入れるものもあります。そしてその弁護士の先生には、「スマートフォンで録音しておくように」と言われました。ハラスメントを誰かに訴えたいときに、何も形に残っていないというのはだめなんです。勇気はいるかもしれませんが、弁護士や相談窓口に話すという前例を作るのも、組織の風土を作っていくことにつながるかなと思います。
身一つでパワハラと戦っても、勝ち目がない場合があります。十分な知識を持った人に相談し、必要に応じて証拠を集めておくことが重要です。
まとめ
部下の指導に悩む多くの看護師が参加した今回のセミナー。外罰的なスタッフの対策や、自身のパワハラ防止のために、ストローク診断やパワハラチェックリストを活用するのがおすすめです。また、一人で解決しようとせず病院全体で仕組みづくりをすることや、然るべきところに相談することも大切。
開催後のアンケートでは「短い時間で端的にポイントを教えてもらえるし、語りが楽しくて元気が出る」「現場で必ず起こることを的確に説明してくれるので『そうそう、あるある』と興味を持って受講できた」など、満足度が伺える声が見られました。
今回ご紹介した様々なパワハラ対策を、ぜひみなさんの病院でも実践してみてください。
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